【アラベスク】メニューへ戻る 第4章【男ゴコロ】目次へ 各章の簡単なあらすじへ 登場人物紹介の表示(別窓)

前のお話へ戻る 次のお話へ進む







【アラベスク】  第4章 男ゴコロ



第2節 銀梅花の香り [2]




 子供じみたことをした。

 我ながらそう思う。
 母の意図は分かる。義妹のしていることなど、くだらないコトこの上ない。
 そんな二人に腹を立てるようなバカな真似など、するもんじゃない。
 だが(さとし)は、納得できなかった。

 ただ納得できなかったのだ。

 ようやく落ち着いてきた心内にため息をつき、ふと空を見上げた。
 星など見えない。
 生暖かいが、(うなじ)には心地よい風。
 それにしても、俺はよっぽど嫌われているらしい。
 本気でくっつけようとしているなら、もっとやりようもあるだろう。義理とはいえ妹として、もっと聡を美鶴に売り込むコトぐらい、できるはずだ。
 だが(ゆら)のしてきた事と言ったら、美鶴の周囲を勘ぐり、適当に聡へ連絡するくらいだ。
 一度、美鶴と緩が会話を交わしたことがあるらしいが、美鶴の話だと、あまり好意的でもなかったと聞く。
 別に売り込んで欲しいとは思わないが、緩の態度はどうも中途半端だ。本気で美鶴と聡をくっつけたがっているようには、思えない。
 だから今までその意図に、まったく気付かなかった。
 廿楽(つづら)の役には立ちたいが、俺の役には立ちたくない…… と、言うワケか。
 笑ってしまう。
 廿楽のためとは言っても、私情は捨てられないらしい。嫌悪する聡が美鶴とめでたく結ばれる手助けなど、百歩譲っても無理というところか。
 ならばせめて、美鶴と瑠駆真がこれ以上接近せぬよう監視し、必要とあらば聡を送り込む。
 俺って、そこまで嫌われてる? なぜ?
 だが、どんなに考えをめぐらせても、聡には思い当たらない。
 まぁそもそも、親の再婚自体に反対していたのだ。再婚相手の連れ子を嫌悪するのも、わからないでもない。
 そう言い聞かせて、またため息をつく。
 どんな(つら)して帰るかな?
 しばらくブラブラ時間を潰したとしても、結局はわが家へ戻らねばならない。
 勢いに任せて飛び出したので、財布も何も持っていない。ファミレスやゲーセンは使えない。
 どうすっかなぁ〜
 ぼんやりと立ち止まり、無造作にジャージのポケットに手を突っ込んだ。
 ?
 取り出してみる。定期券だ。
 そう言えば昼間、部屋の掃除をすべく掃除機をガーガー振り回した。過って机の脚に当て、落ちた定期をとりあえずポケットに突っ込んだのだ。
 学校かぁ〜
 部活動に力を入れているワケではないから、体育館も閉まっているだろう。
 だが、すぐに考え直す。
 (つた)の顔が思い浮かんだ。
 ヤツなら、夏休みでも練習してるかもしれない。学校だって申請すれば、休みの期間も使わせてくれるはずだ。
 昼間は暑いから夜の方が練習しやすい。
 蔦なら、いるかもしれない。
 そう思うと、無償に行きたくなった。
 蔦とバスケでもして身体を動かせば、頭もスッキリするかもしれない。何もかも忘れて、思いっきり身体を動かしたくなった。
 行くか
 思った時には駆け出していた。







あなたが現在お読みになっているのは、第4章【男ゴコロ】第2節【銀梅花の香り】です。
前のお話へ戻る 次のお話へ進む

【アラベスク】メニューへ戻る 第4章【男ゴコロ】目次へ 各章の簡単なあらすじへ 登場人物紹介の表示(別窓)